2019-03-08 (Fri)
2019年3月4日「10年桜」発売から10年後のこの日に作曲者の井上ヨシマサ氏とPV撮影監督の高橋栄樹氏がSHOWROOMで今までの楽曲作成の裏話や音楽・映像技術の専門的な話などを3時間にわたり配信しました。
その中から、未発表の逸話のみを書き出しました。
※メンバーの敬称等は会話のママ
左が高橋監督 右がヨスス

あっちゃんの出産発表
彼女が出産した報告をこの日に(10年桜発売日からちょうど10年目)しようと考えたとも思えなくて…実際のところは単なる偶然かもしれなくて、それをさりげなくやって、あたかも出来過ぎのような世界を生むのが前田さんのすごいところかなぁと思います。
そもそも、10年桜の事を覚えていたかな?(笑)
出産は1か月ずれる人もいるし、1週間なんて誤差の範囲じゃないので今日生まれていてもおかしくない。だからやっぱりすごいこと。
高橋栄樹監督と井上ヨシマサさんとAKB
高橋栄樹監督
初めての作品は「軽蔑していた愛情」
秋元先生からのリクエストは「リアルな中高生を描いて欲しい。セットは簡易的なものではなくて。リアルな生活感があるものにして欲しい」ということでした。
「いじめと自殺」をどう描くか?は2人で相談して決めました。
井上ヨシマサ氏(ヨスス)
「制服が邪魔をする」を作曲して、秋元さんに「もっと明るい曲を書いて」と言われて書いたのが「涙売りの少女」笑
山口百恵みたいなメジャーコードでない曲でもいいと思った。
AKBは同世代の同性が共感してくれる歌をうたうグループにしたかった。
「Beginner」は板野の同級生が「友美の歌っている歌、かっこいいじゃん!」って言われないとだめだった。
同じ悩みを共有して導かれるのがAKBだと思った。
RIVER
ヨシマサ談
歌が苦手だと思っている子…たとえばS・Mさんとかにも楽しく歌って欲しかった。
16人同じキーで歌う事は困難なので、上のキーがでない子のために下のハモリを作って行ったら、難しすぎて歌えないと言われた。笑
ある大人っぽいメンバー(たぶん篠田麻里子)で”RIVER”の部分を低めの声でセクシーにささやく音源を10テイクぐらいとって、これが良い!と思って秋元さんへ送ったら「そこはメンバー全員で叫んでくれ」って言われた。
一応、両方聞いてから決めて欲しいとお願いして秋元さんに聞いてもらったけど、全員で叫ぶ方が採用となった。
その変更の瞬間に高橋監督も立ち会っていて変更したことに驚いた。
その後、代々木体育館で初めてliveで歌ったら、お客さんが一斉に「RIVER!」と叫んだ!
その時に、高橋監督もヨシマサさんも秋元さんが正解だったんだ…と思った。
実はCDをよく聞いてみると小さな声で”RIVER”と入っている。
大声ダイヤモンド
唯一、高橋監督が編集しながら秋元さんと直電話でやりあった作品。
SONYからKING RECORDSに変わり、珠理奈も入って失敗できない仕事だった。
最初に、まゆゆと珠理奈、みゃお、きたりえが4人並んで出てくる場面があるけど、反対側のメンバーを肩越しに撮らずに別々に撮ったので秋元先生に「これだと何を見てどう考えているのかわからないのでカットした方が良い」と言われて、指原、柏木の方をカットした。
それで指原の出番がなくなったのでたぶん恨んでいると思う。笑



10年桜音楽
明るい曲を涙を流しながら歌っているというイメージで作った曲でリズムのジャンルとしてはR&B。
カップリングは「桜色の空の下で」だが実は、どちらをA面(表題曲)にするか悩んでいた。
秋元さんに「どっちがいいか聞いて」と言われてみんなは卒業=バラードだと思っていたので「桜色の空の下で」でしょ。と思っていた。
しかし「10年桜」に決定したので、秋元さんはそういう反応を見たくてstaffに聞いただけで、本人のなかでは「10年桜」を表題曲にすることを決めていたのではないかと思う。
10年桜PV
高橋監督は「桜色の空の下で」が採用されると思ってそちら用のPVを考えていた。
しかし、「10年桜」に決まったので”やったぜパーティー!”みたいな作品を秋元さんに何回も送ったが「そうじゃない」と言われ続けて、ストーリーは決まらずに採用されたシチュエーションだけが残った。
・バスから1人ずつ降りて行く
・パーティみたいな彩
・10年後の世界
撮影の前々日に秋元さんから「切ない感じでお願いします」と連絡が来て、その時に明るい歌の裏側に切ない感じがあってもいいんだと気付いた。
そんなこんなでセットは学校とバス。
設定は、あっちゃん、優子、たかみな、まゆゆ、板野、小嶋が10年後というのはできていた。
でも、ストーリーは撮影の前日まで何もできていなかった。
もちろんたかみなが書いた手紙のことも考えていなかった。
現場(湾)を歩いてどこで何をやればいいのか考えていたら、自分の好きな「東京物語」(短編映画)の中で出てきた防波堤の上で並んでいるシーンを思い出して、それをやった。
高橋監督のお勧めの見どころは冒頭3人で会話をしているシーン(ともちん、こじはる、まゆゆ)。
奥に色が欲しかったのでその3人の後ろの小屋をわざわざ緑と黄色に塗ってもらった。普通の学校だったのにそれをやらせていただけた。
壁が緑でひさしが黄色↓

10年桜妊婦の話
10年後を描くという設定は決まっていたが、1日で全てを撮る予定だったので10年後の特殊メイクをする時間は無くて、どうやって10年後を表現するか相談していたら、しのぶちゃん(衣装部)が妊婦というヒントを出してくれた。
高橋監督は、一番若い子が妊婦役をやると可愛らしい感じになると思って、まゆゆを妊婦役に抜擢するつもりだった。
しかし、秋元先生から連絡が入って「もしも妊婦役を入れるのなら優子か板野にしろ」と言われた。
高橋監督が監修するPVでともちんが台詞を言うのは初めてで、演技経験がない上に妊婦で台詞を言うというのは大変だと思い、優子にした。
ストーリーが完成したのは前日の夜だったため、優子が自分が妊婦になると知らされたのは撮影当日の朝だった。
高橋監督の奥さんが完成したPVを見た時に「優子の歩き方が本当の妊婦の歩き方だ」と感心したほど素晴らしい演技だった。
撮影当日の朝に妊婦役をやると聞いてからの演技なので、「大島優子の日常の人間観察がいかに凄いか」という事がわかる。
高橋監督は、防波堤の上であっちゃんとと優子が喋っているシーンの撮影を下から見ていたんだけど、波の音で2人が何を言っているのか全く聞こえなかった。
芝居もよく見えないし、じーっと下から見ていると大島優子が「すみませーん、演技が終わりましたけどどうしますか?」と声をかけてきた。そのくらい何をやっているのかわからない状況だった。
彼女たちは台本を元に、自分たちなりに芝居をしてた。おじさんが頑張って女の子の気持ちになって「こうしなよ」っていうより全然良い。
当時は秋元さんやメンバー、staff全員から意見が出ていた。
10年桜のメンバーの灰汁(あく)みたいなものも含めて、自分たちがAKBを作っているんだという意識があった。
この先自分たちがどうなるのかもわからないけど、とにかくやるしかないという勢いのある時期だった。


10年桜ダンスシーンの話
撮影日前に、高橋監督のところへ撮影日を1日ずらしてほしいと連絡が来たが、監督は「その日に合わせて美術等を組んでいるから撮影日を遅らせることはできない」と言い予定通りの日程で撮影をすることになった。
どうやら振り入れをするために1日後ろにずらして欲しかったらしいのだが、運営は監督にその事を言わなかったし、メンバーは振り入れをしていないといけなかったという事態を知らずに現場入りをしていた。
午前中に10年後のシーンを撮影して、昼食後に高橋監督がいざダンスシーンを撮影しようと思ったら誰もダンスができなくて驚いた。
冬だったので日が暮れるのが早いため、撮影時間はその時点で残り3時間しかなかった。
仕方がないので、そこから振り入れをすることになったら完璧を求める小嶋陽菜が見た事がないくらいの暗い顔になっていた。
可愛そうだったので、振り入れの予定時間を30分から1時間に変えた。
日が落ちてきて、斜光の関係で桜の木の前で歌う事ができなくなり、急きょ桜の木を工事用のクレーン持ち上げて入口の反対側へ移した。
だから、よく見るとドラマシーンとダンスシーンで桜の位置が違う。
校舎入口の左側に桜

校舎入口の右側に桜

そして、約束通り1時間後にメンバー全員がダンスを仕上げてきた。
結局、夕方の斜光の一番きれいな光がきちんと小嶋にあたって、彼女の茶髪がキラキラ光ってる。
小嶋陽菜が持っているの凄いところだ。
10年後に妊娠したのは前田敦子。
場が作り出すものから生まれる奇跡的な瞬間みたいなものが、前田敦子を中心につむぎ出されていくのがAKBなのかな。
作り手としては、そういうものには結局勝てない。